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「それからはどうしたの?」


僕は涙でくしゃくしゃになった彼女にハンカチを渡してたずねた。


「実家に帰って家の仕事を手伝ってるの。

 ごめんね、こんな暗い話しをしちゃって。」



「きっと旦那さんは、その女にだまされたんだね。

 違う男の子供だったかもしれないね。」



2時間以上話をしたので、彼女はぐったりと疲れたようだ。


レストランを出て、ドライブを続けた。



夕方になって彼女は電車に乗って帰っていった。



「また来てもいいかしら。」


「うん、いろいろはなしてくれてありがとう。」



翌週も彼女は来てくれた。


前回とルートを変えて三浦半島に向かった。


誰もいない丘の上で車を停めていると、彼女が切り出してきた。



「ねえ、お願いがあるの。」


「どうしたの?」


「私のこと抱いて欲しいの。」


「えっ」




「私のこと抱いていいよ。」



彼女は僕の左腕に抱きついてきた。



「でも、条件があるの。生で出して欲しいの・・・」


「生でだしてって・・・」


「うん、避妊はして欲しくないの。」


「どうして?」


「子供が欲しいの。」


「子供が欲しいの?」


「わたし、妊娠したいの。」


「妊娠したいの?」


「うん、私は妊娠できるって証明したいの。」


「証明するって、誰に?」


「前の夫と、あの母親。

 私が子供を連れていたら判ってくれるわよね。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「離婚したあとにね、前の会社の上司に相談したら、

 じゃあ俺が確かめてやろうって言うんでホテルにいったのよ。

 でもいざとなったらスキンしてね。

 約束が違うって言ったら、なんだ本気だったのか、

 ただ欲求不満だからそう言ってきたのかと思ったよ。

 俺だってヨメサン子供がいるんだから妊娠なんかされたら

 困るよって。やるだけやって帰っていったわ。」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「それから3人の男に同じこと頼んだんだけど、

 やっぱりみんな同じ。こっそりとスキンするの。」


彼女は続けた。


「私が欲しいのは愛とかセックスじゃなくて、精液が欲しいの。

 受精して妊娠したいの。」



僕は訊いた。


「ねえ、それを証明してどうするの?」


「あの女に、赤ちゃんを見せつけてやるの。

 そしたら、自分の息子のほうがダメだったんだって判るでしょ。」



「いまさらそんなこと証明して何になるんだ?」


「・・・・・・だって、今のままじゃ一生悔しさがぬぐえないのよ。」


「君だってまだ若いんだからこれから恋愛して結婚して

 子供ができるじゃないか。

 そうすればそんなことしなくてもいいんじゃないのかな?」



「違うのよ、あの悔しさを晴らさないと、私は次にはすすめないの。」





「だからお願い、私を抱いて。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「生で出していいのよ。それに、責任とってなんて言わないから。」




僕は首を横に振った。



それから長い時間、その話しは続いた。



僕の断りに疲れ果てた彼女は泣き疲れぐったりとしている。


大体の住所は聞いていたので、車を彼女の実家に向かわせた。


3時間以上、彼女は無言で窓の外を見ていた。


インターを降りて彼女の家の細かい場所を教えてもらい

ようやく近くまでたどりついた。




彼女に聞くまでも無く彼女の苗字のついた大きなビルが建っていて、

その横にはやはり彼女の苗字の大きな日本家屋が建っていた。



「着いたよ。」


「ねえ、最後にもう一回聞くよ。やっぱり抱いてくれないの?」


「うん、ごめんね。その考えには賛成できないんだ。」


「じゃあ、スキンしてもいいから抱いてくれないの?」


「うん、それじゃ君に失礼だよ。ちゃんとした恋愛をして欲しいよ。」




車でひとしきり泣いたあと、彼女は降りていった。



帰り道、とても苦いドライブだった。



その後彼女からの連絡はない。






あれから約10年が過ぎた。


彼女は自分の子供を抱くことが出来ただろうか?




でも、女性は子供を産むための機械じゃないってこと

地方ではまだまだ理解されていないんだと再認識した事件だった。



hana09

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